ユニフォーム




あることを契機に、久しく不義理をはたらいてしまった高校時代の恩師と言葉を交わした。先生は「積もる話がある」と切り出し、次のようなエピソードを語ってくれた。

そのころの私は高校を卒業し、ある大学の芸術学部に入学、デザインで立志すべく勉学の日々を送っていた。その間、恩返しのつもりもあって、先生が顧問を務め、自身も所属していた部活動のユニフォームとビジュアル・アイデンティティのデザイン案をつくり、持ち込んだことがある。ただ残念ながらその当時、先生は母校から他校へと転任となったばかり、その他諸々の事情もあってそのデザイン案は実現せず、その後、私も忘れてしまった。

十年後、偶然にも先生は再度母校へ戻られ、転任前と同じく部活動の顧問を務められた。そのようなある日、ひとりの部員が部室の押し入れの奥から「すごいものを見つけた」と興奮しながら先生のところへやってくる。よくみると学生が手にしていたパネルには見覚えのあるデザイン画が載っている。それを見た先生は突然「これを部の正式なユニフォームにする」と宣言、そのとおりに作成してくれたのだという。

仕上がったユニフォームを部員達も気に入ってくれたようで、意気揚々と身にまとい、練習に励む日がつづく。しばらくすると不思議なことが起こった。

地域住民の間でそれらが評判になり、地域イベントへの参加依頼が増えるようになった。さらに「あのユニフォームを着たい」と学生が入学、入部してくるようになり、部員が急に増えた。そして、ついには部活動の質が上がっていき、全国大会出場の常連校にまでなったのだという。


いまだに母校ではそのデザインが「憧れのユニフォーム」として使われているそうだ。今思えば稚拙なデザインだったと思うのだが、それらがアノニマス・デザインの理想を体現していたという事実を、先生のお話から思いがけず知ったのだった。「勝手にデザインを借用して申し訳ない」と先生は言われる。恩師の限りない慈しみに思わず頭を垂れた。(urikura)