The tailor makes the man.


自宅近くの、歴史ある商店街を抜けた一角に小さな洋服屋がある。いわゆるビスポーク・テーラーで、地元の名士が通う老舗だ。そこでは76歳になるベテラン・テーラーが息子と共に2人で店を切り盛りしている。そろそろ礼服の一着でも持っていないことには困ることもあろうかと逡巡していたところ、店に相談したのがきっかけで、今では事あるごとに通っている。



「そういった場所でお召しになるのであれば、クラシコ・イタリアでいきましょうか」
「urikura さんには ロロ・ピアーナの生地が良いでしょう」

「いいえ、ここは体のラインが外に張っているので、あまり絞らない方が」

「見本帳には生地に合うボタンがないので、神田で探してきます」
「このボタンも良いですが、urikura さんのお人柄には合いません」

「服装が人に勝るようではいけません」

とまあ、こんな感じで提案と批評、時に愛あるゆえの苦言を織り交ぜながら、その顧客の人となりに合わせてスーツの各部位を組み上げていく。私の場合、選択が派手で奇抜なものになるようで、落ち着いたものに調整される傾向にある。今回もグレーの色調をうまく馴染ませ、ボタンなどを適度にアクセントに加えることで上品なものに仕上がった。いつもこの段階で職人の提案が正しいことが分かるのだ。

"The tailor makes the man." とはよく言ったものだ。装うことがその者を定義することにつながるという格言は、デザインがモノの存在を表現することであると教えてくれる。テキスタイルの色彩や質感、ディテールの妙によって、その人となりを表すテーラーの技に感心しつつ、自身の仕事の質を省みる日々を送っている。(urikura)