BABY BOOTLEGGER





インダストリアル・デザインを生業としていると、日用の機能からは離れられないわけだが、機能的なものが美しいとは限らない。日々、日用的なものに囲まれていると、無性に意味のないもの、ただ美しいものを愛でていたいという欲求に駆られることがある。

美しい艇を手に入れた。マホガニーと真鍮、皮革など、あらゆる部分が本物の素材で仕上げられた船舶模型のことだ。

BABY BOOTLEGGERは、1924年ゴールド・カップの優勝艇であり、モノフォルムの美しい艇である。APBA ゴールド・カップとはデトロイトで行われる水上レースのことで、1904年から現在まで110年間つづく、あらゆるモーター・スポーツ・レースにおいて最古、かつ最長の歴史を持っている。

当時の艇は水上滑走艇といえどまだ木製が主流で、今の船艇のように樹脂製ではない。そのため造形に物的制約がある反面、つくり出された曲線や曲面は無理なく流麗で、ニス仕上げの艶も相まってクラシックな高級家具のように美しい。私の知るかぎり、世界で最も美しい動く造形物である。

本物は今でも約1億1000万円ほどあれば建造することが可能らしい。木造艇なので、維持するにはさらに費用が必要だけれども。しかし、いずれは、と大それたことを考えるささやかな時間くらい許されても良いのではなかろうか。(urikura)