線路上にて_ジャカルタで出会った光景



ここ2年ほど仕事でインドネシア、ジャカルタを訪れる機会が頻繁にある。そこでいつも車中から見かける住民の奇妙な行動についてお伝えしたい。

インドネシアでの一般的な都市交通機関はバスだが、もちろん鉄道も走っている。ただバスに比べて運行本数が少なく、時間もかかるため、鉄道はあまり人気がないらしい。線路の脇にはバラックが建ち並び、ひとが住み着いている様子が伺えるが、よくみると線路上に寝そべっている者が少なからずいるのだ。頭をレールにのせ、足のふくらはぎ部分をもう片方のレールにのせるように、丁度、線路に対して直交するかたちで体を横たえている。

「いったい何をしているのだろう?」

ただ寝るだけなら他にも快適な場所がいくらでもあるだろうし、日光浴をするにしても同様。何よりそこは列車の運行している線路上であって、間違って轢かれてしまえば即死である。まったく私の乏しい想像の範疇を超えていて、疑問は膨らむばかり。車を降りて訊きに行きたい衝動に駆られるものの、通勤バスを止めるわけにもいかない。ただ悶々としているうちに出張が終わってしまうのが常だった。

ところが今回の出張で疑問が氷解した。どうやらこの奇妙な行動が流行ってしまったらしく、ホテルで配布される日本人向けの地元紙にこんな記事が掲載されていたのだ。

『線路に寝そべり腰痛治療』

レールには信号機の点滅を判断するために10ボルトほどの弱電流が流れている。そこに体を横たえると電流が流れることで筋肉が痙攣し、マッサージ効果があるというのだ。いわゆる電気セラピーと同等の効果があるということで糖尿病や痛風、腰痛に悩まされているひとに口コミで広がったらしい。下町のリラクゼーション・スポットとして人気を博しているということだった。もっとも線路内に立ち入ることは危険行為として法律で禁止されており、鉄道側は何度も警告しているらしいのだが。

道具というのは思いも寄らない使われ方をすることがある。逆に道具によって新しい行動が生まれることもある。文化慣習が異なる地域であればなおさら、そのような出来事に出会うことが多い。彼らの知恵は逞しく、実に愉快だ。経済発展著しく、所得格差や交通渋滞など問題山積のジャカルタだが、下町住民の強かさを如実に感じた出来事だった。(urikura)