「デザイナーは昔から“眼鏡髭”と相場が決まっているんだよ」
デザイナーの風貌についての会話である。私もその当時ある理由から髭を蓄え始めたので、“眼鏡髭”な風貌になっていたのだが、それを揶揄してのことだったと記憶している。
さて今回はその眼鏡についてのお話。8年間愛用してきた Theo のレンズに経年で傷がつき、さすがに支障が出てくるようになったので、新調したいと常々思っていた。ところが様々なモデルを試してたどり着いたのが Theo eyewitness のチタンフレームだったので、なかなかそれを越えるものが見つからない。それならばそれでよい、レンズだけ交換しようと訪れた行きつけのお店で見つけてしまったのが、このHERRLICHT。眼鏡好きならご存じだろう。
木製のフレームは数多あれど、ヒンジやボルトまで全て木製という徹底した造りにまずは感心する。それゆえ非常に軽量。チタンフレームより装着感が軽いのには、正直驚いた。肌に当たる部分も全て木製であるため、温もりがあって柔らかい。素材に捕われ、機能や意匠を犠牲にしているわけではないことが分かる。
また、この眼鏡、革製品のように経年の使用で艶が出て、色の深みが増すらしい。実際、店頭で店員が使用したサンプルを見せていただいたのだが、白っぽいメイプル材が飴色に変化していた。こういうプロダクトは天然素材を利用した家具など工芸品以外ではなかなか出ないが、工業製品である眼鏡を工芸的に扱うことで新しい付加価値を与えている。それもそのはず、ドイツの眼鏡好きの若い家具職人が「自分には木材しか扱えないから」と何も知識のないところから作りはじめたのだそうだ。全て手作業でつくられるため、生産量も年間250本ときわめて少ない。価格も非常に高価だが、職人が生きている限り修理が可能なので、まさに良質な家具のように長い時間付き合っていくことを考えれば納得がいく。1本5000円以下で眼鏡が買える時代に、至極贅沢なことではあるけれども。
もちろん購入した。素材は色艶の変化が楽しめるメイプル材やチェリー材を薦められたが、顔色やワードローブの色合いを考慮して渋めのウォルナット材を選ぶ。今後、“眼鏡髭”の風貌とともに枯れていってくれる相棒として、気長に使っていきたいと思っている。(urikura)