Book Review: 「レイアウトの法則」佐々木正人



「レイアウトとは周囲にある具体のことである」(本書あとがきより)


ジェームズ・ギブソンの生態心理学をいちはやく日本に紹介した、知覚における新たな認知理論=アフォーダンス研究を専門とする心理学者、佐々木正人氏の著作。現在、彼の研究の重心のひとつがアート制作との協業に当てられており、本書はギブソンの提唱した視覚概念である「レイアウト」を軸に、美術史家兼画家、写真家、建築家、装幀家などと対談しながら表現のアフォーダンスについて論じたもの。


まず「レイアウト」の用語解説からはじめよう。

これまでの視覚理論は我々の視覚を幾何学的な「像」によって説明してきた。つまり網膜に写った幾何学を脳が認識することで「見え」が形成されるというふうに。しかしギブソンは航空機パイロットの視覚を研究していくうちに周囲には「肌理」があると言いはじめ、人間の「見え」は「像」によって形成されるのではなく、「肌理」(質感)を伴った移り変わる色面によって構成されているとした。このような知覚のあり方を彼は「レイアウト」という概念で定義したのだそうだ。

なるほど、確かに「像」は幾何学と同じように形而上のものであって、現実の視覚に輪郭線は存在しない。よくモノを眺めてみれば、ある「肌理」が移り変わっていく先に別の「肌理」と重なり合う境界が現れるが、そこに輪郭線は知覚されないはずだ。このような事態は石膏像デッサンや油絵をやった経験のあるものはよく理解できるのではないだろうか。


この「レイアウト」という概念について、芸術分野で活躍する人々と対談していくのだが、その内容はさまざまな気づきに満ちている。実に多岐にわたるのでここで全ての引用は控えるが、たとえば近代芸術史とその理論研究を専門としている松浦寿夫氏との対談では「光の経験」として以下のようなことが語られる。

西洋絵画においてはこの「レイアウト」的な知覚概念を早くから問題にしていた。17世紀フランスのアカデミーでは「像」に重きをおくデッサン派と「肌理」に重きをおく色彩派の間で論争が起こり、認識の様態の差異について自覚的に論じられているし、19世紀当時アカデミーで主流であったデッサン派に対して、色彩派である印象派の画家たちが在野にて生まれてくるなど。科学に先立って芸術の領域で認識論が展開されていたことを知れば、印象派絵画に対する見方も変わってくる。つまり絵画とは画家の認識プロセスを構築した表現物であり、観衆は画家の認識を追体験しているというわけだ。


デザインにおいても我々はこの「レイアウト」的なものの見方を日々行っているはずだ。それらをきちんと自覚し、言葉で説明することは無駄なことではあるまい。デザインの分野において、ギブソンのアフォーダンスという概念はドナルド・A・ノーマンの著作によって広がったが、彼のいうアフォーダンスは極めて狭い領域しか扱っておらず、ギブソンのいうところの全容を網羅するものではない。ギブソン自身も言ったそうだ。「表現」の研究は容易ではないと。そしてギブソンは「表現」の問題を研究主題から排除してしまったのだが、佐々木氏はそこに切り込もうとしているのだ。佐々木氏と同様、表現者である我々はその困難を自覚した上で日々表現に努めなければなるまい。なぜならそこにはまだ可能性が広がっているのだから。


最後にアフォーダンスについての説明はここでは控える。すでにデザイン用語としても各方面で見受けられる言葉ではあるし、詳しく知りたいという方にはここで私の稚拙な概観を披露するよりも佐々木氏の他の著作を紐解いてみることをお薦めしたい。(urikura)