いわずとしれたアメリカ合衆国におけるグラフィックデザインの巨匠ポール・ランド。彼がアリゾナ州立大学などで行った学生との対話について、ミカエル・クルーガーが抜粋しつつ一冊の本にまとめたもの。日本では「ポール・ランド、デザインの授業」として邦訳が2008年10月1日に発行されている。
学生との対話であるだけに、デザインの基本的なテーマが平易な語り口で説明されていくが、ランドの言葉は深くかつ鋭い。すでに現場にいる我々にとっても耳の痛い話が満載である。
デザイナーといえば、日本では一般的に「かたちをつくる職人」「色をあつかう専門家」といった認識が強いようだが、欧米では必ずしもそうではない。それはランドの言葉のいくつかを本書から抜粋すれば容易に想像できる。
"Everything is design. Everything!"
(すべてのものはデザインなのだ。すべてのものが!)
"Design is a relationship between form and content."
(デザインとはかたちと中身の“関係”のことだ。)
かつてヴィトゲンシュタインが「存在が“いかにあるか”ということが神秘的なのではない。存在が“ある”ということが神秘的なのだ」と言ったそうだが、哲学の主題とするのが「なぜそこにあるのか」だとすれば、デザインは「どのようにあるのか」を問いつつ、それを実践していくことであるといえる。ランドが学生に問うているのはまさにこれであり、考え続けることの重要性と喜びをシニカルに訴えている。このことは彼が学生に読むべき参考書として挙げた書籍のなかに、デューイ=ミードの「経験としての芸術」やチャールズ・ヴァン・ドーレンの「知の全体史」など少なからず哲学書や思想書が含まれていることからも伺える。つまりデザインとはひとつの「方法論」であるべきなのだ。
本書を原点に立ち戻るために傍らに置いておくも良し、参考文献の手引書として活用するも良し。全80ページほどの小冊子ではあるのものの、学生のみならず、現場で活躍するデザイナーにもお勧めの一冊。(urikura)